2024年度

140字小説コンテスト

年間グランプリ

 

 

春から冬までの4回開催された140字小説コンテスト「季節の星々」の入選作から、今期は3編が選ばれました。

選評は雑誌「星々vol.7」に掲載されます。

 


 

受賞作

 

酒部朔日

(酒部朔より改名)

「春の星々」入選

 

 

介護用のミトンを外すと細くなった指が現れる。鼻歌でもうまかったらよかった。ホラ話がうまかったらよかった。もっと父と触れ合えばよかった。手を握れるのは最後になるだろう。ぼくがいきなりそんなことをしたら、そう、最期だと父は悟るだろう。ぼくは握った。ぼくが生きていくために握った。

 

受賞の言葉

 

この度は、大好きな星々の140字小説コンテストでグランプリをいただけて、とても嬉しいです。ほしおさなえ先生、運営のみなさまに感謝しています。140字小説でしかきっとできない、小さくても光る感情や風景を掬うことがしたいと思って書いています。それがコンテストに参加する中で楽しくなっていきました。みなさまのおかげです。今後ともよろしくお願い致します。

 



 kikko

「秋の星々」入選

 

 

暗く長い冬が来ようとしている。この町では一年の内四ヶ月も雪が降っている。異国から農家に嫁いできた整体師は沈んだ顔の客の背骨を撫でながら、人生さんぶんのいちが暗闇と言う。住人達はいつも春を待っている。夏も秋も冬も春の間にすら。ぽつぽつと春の話をする時だけ、客の肩甲骨はわずかに緩む。

 

受賞の言葉

 
選出うれしいです。近所の整体師さんとのやり取りを思い返して書いたものですが、先日同じ人に仕事の愚痴を言ったところ「人生は3万日しかない。だから自分のことだけ考えるよ」と言われ、詩を感じました。でも3万日しかないなら、自分や他人ではなくてもっと良いもののこと考えたいですね。雲とか。

 



 祥寺真帆

「冬の星々」入選

 

 

重鎮と呼ばれている。「というか文鎮か」役員室の椅子にずっしり腰を下ろす。尊敬ではない、それどころか煙たがられている。けれどもまあ、そういう役回りが来たのだ。君らが自由に筆を持ち、とめ、はね、はらい、よそから風が吹けば飛ばされないようにしているんだがな、と戦略資料のファイルを開く。

 

受賞の言葉

 

この度は年間グランプリに選んでいただきありがとうございます。とても嬉しいです。星々に鍛えられるなあと思いながら毎回参加させていただいておりました。みなさんの物語の世界に触れてはっとしたり、選評を拝読して140字小説の奥深さを感じたりと、私にとって星々は書くことだけではない魅力があります。どこかにいる誰かの心が少しでも動きますように。これからも書き続けていきます。

 


 

過去の年間グランプリ・星々大賞

 

2023年度

2023年春〜2024年冬

石森みさお

春の星々一席

星々vol.5にて発表

 

第3期

2022年9月〜2023年2月

のび。

十月の星々一席

星々vol.3にて発表

 

第2期

2021年11月〜2022年8月

へいた

七月の星々一席

星々vol.2にて発表

 

第1期

2020年7月〜2021年8月

kent.kuroya

十二月の星々一席

作品集星々にて発表