2023年度「春・夏・秋・冬」の140字小説コンテスト「季節の星々」入賞に輝いた作品について、人気投票を行いました。
対象作品は以下のリンクにて公開しています(2024年8月10日まで)。
星々文芸博当日に会場投票・オンライン投票を行い、「星々贈賞式」にて結果発表を行いました。
※対象作品の公開は2024年8月10日にて終了しました。
結果発表
総投票数 53票
1位(9票)
酒部朔
祖母の家の電話番号をまだ覚えている。もう家はない。レースのついた黒電話が鳴るのを想像する。遠くの土地で突如鳴り出す電話のベル。暖かな食卓にかかったら、ごめんなさいを言って切ったらいい。もう忘れよう。もしも誰も出なかったら。真っ暗な部屋で鳴り続けたら。もしもその後誰かが出たら。
2位
あやこあにぃ
ドン。花火の鈍い音が、遠慮がちに家の中に流れ込んでくる。私はこの一年で骨が浮いたシロの横腹を撫でる。名前を呼ぶと辛うじてしっぽを振る体を腕に抱けば、ドン、と次の花火が上がる。去年は一緒に見たそれを、今年は瞼の裏に浮かべる。永遠に続くと思っていた当たり前の名残を、精一杯抱きしめる。
河音直歩
タクシーで祖父の葬式へ向かう。後部座席は父と姉と並んでぎゅうぎゅう、快晴の日射しが強い。父は見たことのない背広姿で「お義父さんが結婚祝いに作ってくれた。大事にしまっていて、今日、初めて着た」と苦しそうに笑う。埃ひとつ付くたび父は、姉も私も、手を伸ばして払う。何度も何度も払う。
3位
右近金魚
妖精が売られると聞き市場に走った。恋や光の妖精は即完売。黒っぽいのが一羽残っているだけだった。「私は詩の妖精です」 妖精の口の中には夜明けが満ちていた。星々の奏でる音楽も聴こえた。詩は小さな器に何て巨きなものを納めてしまうのだろう。心の鈴が震えた。妖精は今も私の書斎に棲んでいる。
野田莉帆
天国へは写真を一枚だけ持っていける。記憶は薄れてしまうから、写真に映っている小さな女の子が誰なのかはもうわからない。それでも、天国へ来てからの習慣は染みついている。写真の縁を撫でて、いつも願う。花が綻ぶように笑う女の子が、幸せに暮らしていますように。広く澄みきった空の上で、想う。
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